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はじめに
前回の記事では、「一度値下がりしたグッズの価格が再び高騰することは稀有だ」とお伝えしました。
しかし、私はその稀有な状況に遭遇した経験が何度かあります。
今回は、グッズの価格が高騰した例について、3つのパターン別にお話ししていきたいと思います。
また、そのことで私の推し活にどんな変化があったについても後半で語っております。
ぜひ最後までお付き合いいただけますと幸いです。
グッズの価格が高騰するパターン3選
■1 初期のグッズにプレミアがつくパターン
みなさん、中古買取ショップのショーケースの中を覗いてみたことはありますか?
私は初めてその存在を知ったとき、一体どういうことかと驚きました。
お菓子についてくるような小さなシールが数万円したり。
自販機から出てきそうなカードが私の月収くらいしたり。
珍しくもない絵柄のアクリルブロックが私の月収の倍以上だったり。
不意に遭遇してしまい、思わず立ち止まったことがある人もいるかもしれません。
あの中には、様々な理由で高額となった商品が並んでいます。
ショーケースを長期間陣取っているグッズたちは、最早展示品と呼んでも差し支えないかもしれません。
まずはその中のひとつ、初期のグッズにプレミアがついたパターンについてお話しします。
前回、ジャンルの流行りにあわせてグッズの価格が急激に上下するメカニズムについてお話しました。
その初期の段階──熱狂が始まる前後に、受注販売やBOX購入の特典など少ない規模で生産されたグッズがあったとしたら、どうでしょう。
多くの人は、自分がそのジャンルに参入するより前に販売されていたものを強く求める傾向があります。
これは心理学で言うところの“損失回避性”という心理現象に基づいています。
人は自分の手に入ったものよりも、手に入れられなかったものにより大きな価値を感じてしまうものなのです。
「あと少し早くこのジャンルを知っていれば、購入できたのに!」
そんな思いは、人々の物欲を掻き立てます。
熱狂により急増したファンの多くが、その小規模生産されたグッズを追い求めることになるのです。
当然、これからジャンルが盛り上がろうというときに、元々のファンがそれを手放すはずもありません。
さらに初期であれば、ライト層や転売目的の買い手もほとんど存在しないことから、そのグッズがフリマアプリや中古買取ショップにも出回ることは皆無と言えるでしょう。
すると、そんな状況に気づいた中古買取ショップや個人が買取価格をどんどん吊り上げていきます。
一般的な買取価格は供給過多になれば値崩れするものですが、この価格は長い間崩れることがありません。
なぜなら市場に出回っていないどころか、需要が満たされるほどたくさん生産されていないからです。
さらに、そのジャンルの流行が長く続けば続くほど求める人は増え続け、価格は膨らむか、良くて据え置きとなります。
こうして、ショーケース内から給料にマウントを取ってくるようなグッズが生まれるのです。
ここまで大きな価格でなくとも、ジャンルの規模が小さかった頃のグッズが流行りに乗って多少高額になることはあります。
500円くらいのものが3000円とか、5000円くらいになるものです。
高いことには高いけれど、給料全額と比較するとまだ買える範囲だと思います。
もし欲しいものが見つかったら、今欲しいものを少しだけ我慢して手にとってみるのもいいかもしれません。
ただし、いくつか気をつけてほしいことがあるので、ぜひ次の章まで読んでからにすることをおすすめします。
■2 入手難易度が高かったパターン
アニメイトやANIPLEXなどの通販サイトで注文できる商品は、多くの場合、ファンに広く行き渡るように販売されます。
個数制限があったとしても、複数回に分けて注文すれば購入できることが多いです。
また、売り切れたとしても反響が大きければ2次受注、3次受注が行われることもあります。
しかし、昨今の推しグッズはそのようなものばかりではありません。
・ 海外通販サイトで数量限定で受注販売をしていたグッズ
・ 海外ゲームへの高額課金に対する返礼品
・ 海外ライブの会場限定グッズ
・ BOX購入時にランダムで封入される特典
・ 平日に特定の場所でゲリラ配布されたグッズ
・ 高額商品の特典(眼鏡、鞄、時計など)
・ 特定のサービスや公的施設の利用者のみ入手可能なグッズ(通信サービス、選挙など)
・ 高倍率の抽選で当選した場合のみ入手可能なグッズ
この他にも、入手するために様々な高難易度ミッションを設けられたグッズが存在します。
再販の見込みがないこともあり、こういったグッズの価格は後日高騰する傾向にあります。
私は以前、海外通販サイトで数量限定で受注販売をしていたグッズを友人から譲り受けたことがありました。
定価は1500円くらいだったのですが、後日10万近くまで値上がりしていて驚きました。
このパターンの廉価版としては、国内通販で販売開始直後に売り切れたグッズが挙げられます。
つまり、スマホを連打しなければ買えない程度の入手困難さという肩書きを得た、普通のグッズたちです。
しかし、これらはそう遠くない未来に高確率で再販が発表されます。
企業としても、売り上げは多いに越したことはないはずです。
また、国内品であればフリマアプリに出てくる可能性も高まります。
そのような理由から、このグッズたちの価格はあっという間に最高値を記録し、その後下降の一途を辿ることになるのです。
■3 SNSで盛り上がったパターン
事の発端は、フォロワー数の多いファンの発信でした。
「私がジャンル参入前に配布されていたらしい△△の特典が欲しすぎる。」
現在、当時のツイートを見ることはできませんが、だいたいこんな内容でした。
△△というのは、ジャンルにとって初期である2〜3年前に開催されたイベントです。
私は実際にそのツイートを見て、「確かにあの特典かっこよかったなー」と懐かしく感じたことを覚えています。
そしてその数日後、TLになにやら記憶に新しい特典の買取募集がいくつも流れてくるようになったのです。
それは件の特典と形状がそっくりではあるものの、1年ほど前に開催された全く別のイベントの特典でした。
更に、そのイベントで販売されたグッズの買取募集もちらほら流れてきます。
「え、なんで〇〇高騰してんの?」
「〇〇何事?」
「今メ〇カリ出したら売れるかな?」
心の内をフォロワーさんに代弁され、私は促されるようにフリマアプリを開きました。
そして、イベント開催時に1000円前後で譲渡に出されていたその特典が、1万円近くまで値上がりしていることを知ったのです。
約10倍の値段です。
『私なんて無償でお譲りしてたのに』
当時、私はフリマアプリをそんなに使ったことがありませんでした。
ですが、動揺しつつも交換用として保管していた〇〇の特典を取り出して、出品ページを開きます。
そして相場よりちょっと控え目な価格で出品してみました。
ネットのお祭り騒ぎに便乗したいという気持ちと、本当に売れるのかという半信半疑。
そして売れるのだとしたら、これまで無料配布した分くらいは取り戻せるのではないかという打算が私の頭で渦巻いていました。
すると、投稿とほぼ同時にSOLDの赤いマークがつきました。
『ほんとに売れた……』
嬉しいような、申し訳ないような。
なんとも言えない気持ちで、丁寧に梱包させていただいたことを覚えています。
後日、中古買取ショップを訪れると、〇〇の特典は1万5千円ほどで売られていました。
また、事の発端となった△△の特典に至っては、3万円近くの価格がつけられていました。
SNSでは、中古買取ショップの買取価格一覧が頻繁に流れてくるようになりました。
声の大きなファンが欲しがっていたというだけで、ここまで事が大きくなるとは誰も予想していなかったと思います。
イベント開催中はもちろんそれなりに盛り上がっていましたが、開催期間は長く、〇〇では通販もありました。
公式から何か発表されたわけでも、芸能人が宣伝したわけでもありません。
未だに不思議な出来事として、強く印象に残っています。
そしてこのことが、私のグッズ収集の小さな転機となったのです。
偶然の幸運に潜む大きなリスク
ここまでお話した内容は、一見すると“推し活で得をした話”と捉えられるかもしれません。
特に、2や3のパターンでは私が実際にその恩恵を受けたエピソードを添えています。
1に関して私自身は経験がありませんが、友人が何気なく持っていたグッズが80倍ほどの値段になっており、売却を見守ったことがあります。
他人事であっても、なかなか面白い体験でした。
ですが、これらのお話には非常に大きなリスクが潜んでいます。
■ 柳の下のドジョウ
まず、これらのグッズはいずれも狙って手に入れられるものではありません。
1のパターンのように、ファンが急増するジャンルの希少価値の高まるグッズを事前に購入しておくのは非現実的です。
推し活という概念を捨てたとしても、予想するために膨大な時間や経験が必要になるでしょう。
2のパターンのように、入手難易度の高いグッズを狙って収集することは可能かもしれません。
しかし、入手難易度が高いということは、入手するためにお金がかかるということです。
さらに、入手したところであっという間に流行が変わってしまう可能性もあります。
購入を諦めたグッズが後日安値でフリマアプリに並んでいる光景を、私は何度も目にしました。
そして3のパターンを体験したのは、ここ10年で1度だけです。
まさに、再現性皆無。
柳の下にドジョウがいるとは限らない──昔の人の教えは胸に刻んでおくものです。
■ ジェットコースターは天辺で止まるのか
さらに、大昔の骨董品でもない限り、どんなグッズでも大抵そのうち値下がりします。
・ ジャンルのブームが落ち着いたから
・ 再販されたから
・ 類似品やより良いグッズが発売され、需要が分散したから
・ SNSでの話題が流れて需要が落ち着いたから
上がり過ぎた価格は、ありとあらゆる理由で落ち着いていくものなのです。
1のパターンのように展示品化したグッズでも、ジャンルの終了が発表されたら折り返す他ないでしょう。
3のパターンで触れた〇〇の特典は、今や数百円で売買されています。
突然高騰するようなグッズは株と同じで、いつが天井値か誰にもわかりません。
そして、天辺で止まっている時間は所有者が期待するほど長くはないのです。
■ 棚ぼたによるデバフ再び
もしもグッズの価格高騰による恩恵を受けることがあったとして、その偶然は果たして幸運なものでしょうか。
『いつもたくさん貢いでいるのだから、たまには得をするようなことがあってもいいのでは?』
自分がその立場になると、心の何処かでそう感じてしまうものです。
推しへの愛着や過去の選択、情報収集などが優れていたから報酬を得られたのだ、と。
しかし実際は、報酬と共に得てしまった罪悪感を中和するために、本来無関係の事柄を関連づけてしまっている状態です。
これは認知バイアスのひとつでもあります。
つまり、誰もが陥りやすい棚ぼたによる罠なのです。
そして、このぼた餅は、知らず知らずのうちに良くない方向へと推し活の舵を傾けていきます。
そもそも推し活とは、自分が楽しむためにするものです。
報酬を得るためでも、況してや金銭的に得をするためでもありません。
貢ぐとか、報われるといった感覚は、本来あまり健全なものではないのです。
もちろん、推しに貢ぐこと自体を楽しんでいるのであれば全く問題ありません。
推しに金を使わされることで、どんなテーマパークよりも胸が高鳴ったという経験は私にもあります。
そうではなく、ここではいずれ『どんなに貢いでも報われない』と感じてしまうことを危惧しているのです。
ラッキーなことはあくまでラッキー(幸運)であり、確定報酬ではありません。
しかし一度経験してしまうと、経験する前にはなかなか戻れないものです。
そして中途半端な成功体験は、二匹目のドジョウという幻想を創り出します。
“今後値上がりするかもしれない”という視点を得てしまったことは、私のグッズ収集にとって非常によくない出来事でした。
それからの私は、“損失回避性”──得をする喜びよりも損をする苦痛を大きく感じる、という心理現象に振り回されるようになりました。
『今買わないと、高騰して手に入らなくなるかも』という焦り。
『手に入らなくなったときに、もっと買っておけばよかったと後悔するかも』という不安。
これらが私の購入量を押し上げていったのです。
それまでも特に上限を決めてはいなかったので、ランダム品に関してはあまり変わらなかったかもしれません。
しかし、アクスタなどのオープン商品の購入数はほぼ倍になりました。
また、自分が欲しいかどうかだけでなく、購入難易度が高いものを所有したいと感じるようになりました。
正直なところ、そのグッズを手にしたときはとても嬉しく感じていたため、“自分が欲しいわけではなかった”とまでは思いません。
ぬいぐるみと並べて写真を撮影をしたり、大切に保管するためにひとつずつスリーブをかけ、ときどき取り出しては眺めていました。
ですが、それらのグッズを自力で購入する必要があったかと聞かれると、全くなかったと思います。
人から譲り受ける方法もありましたし、後日フリマアプリで購入することも可能でした。
しかし当時の私は、『損をするかも』『あわよくば得になるかも』という損得勘定に突き動かされていたのです。
それで、1種類の缶バッジに10万円を超える金額をつぎ込んだり、1種類の紙類に14万円ほどつぎ込むことで安心を得ようとしていました。
とはいえ、あれはあれでまぁ楽しかったし勉強にもなったので、いい経験だったと思っています。
ですが、私にとってはあまりいい推し活ではなかったと思います。
前述した通り、グッズの値段というのはそのほとんどが下がっていくものです。
損得勘定が外れたことに気づいたとき、大量のグッズに囲まれていると少なからず落胆することになります。
市場価値と自分の価値観が同調していることに気がついたときに抱いた違和感が、私の今の推し活の礎となっているのです。
まとめ
グッズの画像を見れば名称や値段を答えられ、グッズの個数を見れば梱包方法と定形外郵便でいくらになるかだいたいわかる──
そんな状態の自分は、“グッズについてよく知っている”と思っていました。
もちろんフリマアプリやSNSでの取引を行うためには、ある程度必要な知識です。
しかし私はそういったことに気を取られ、いつの間にか自分にとってのグッズの価値がわからなくなっていたのです。
人気のあるグッズや珍しいグッズを、宝探しのように見つけ出すのは楽しいものです。
持っているグッズの価値が上がれば当然嬉しいですし、フリマアプリをうまく使って長く推し活を楽しむことも大切なことだと考えています。
楽しみ方、推し方は人それぞれです。
それと同じで、自分の価値観は自分だけのものであるということを忘れないようにしたいものです。
棚ぼたのような幸運も、推し活に“デバフ”をかけることがあります。
だからこそ、誰よりも自分が納得して楽しめる推し活をこれからも続けていきたいと思います。
今回もお読みいただきありがとうございました。
またぜひ遊びに来てくださいね。


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